【逃げ恥】星野源が語る、「平匡さん拒否事件」の意味深さ(第7話)
※2016年11月28日放送「星野源のオールナイトニッポン」の書き起こしを元に書いています。
■賛否両論の「平匡さん拒否事件」(=第7話エンディング)とは
新婚旅行以来ギクシャクしていたもののなんとか乗り越え、ついに距離がぐっと縮まった二人。ソファで並んでワインを飲みつつ、いい雰囲気になり2度目のキス。
そして、みくりちゃんがこんなことを言います。
「いいですよ、そういうことしても。平匡さんとなら」
キスはもう2回目。つまりは「その先に進んでもいい」ということでしょう
それに対して平匡さんは
「む、無理です。そういうことをしたいのではありません。無理です。ごめんなさい」
と拒否してしまいます。
■「星野源ANN」に平匡さんへの怒りのメールが寄せられた
「ぐおおおおお!!何やってんだ!!おおおおお!!!!」
「もう、平匡さんのバカ!!!!」
うーん…。
35年間女性経験がなかった平匡さんにとってはいきなりハードルが高すぎるよな~~と思いますし、しかし一方でみくりちゃんも、ちゃんと言葉で「好き」と言ってないのに突っ走ってしまったかな…という印象もあります。
どちらも悪くないだけにとても悲しいシーンでした。ちなみにわたしは泣いた。どうしようもなかったんだ、みくりちゃんも平匡さんも……
■星野源「いかにみんなが男と女というレッテルに縛られているかの証明」
この平匡さんへの怒りメールに対する源さんの考えがこちら。
星野「このシーンって男女を反転すると、感じ方が変わるんです。全然怒る気持ちにならない。今まで彼氏がいたことがなくて、そういう経験がない女性に対して、男性が「いいですよ、あなたとなら。しても」って言ったときに感じる感情って全然違うじゃないですか。怒りじゃない。それで拒否してもまったく怒る気にならない。「そりゃしょうがないよね」ってなる。でも男になっただけで、「おまえしっかりしろよ」って言われるってことはそれは、いかにみんなが男と女というレッテルに縛られているかということの証明なんですよね」
源さんってたまに、こういう鋭いことをサラッとといいますよね。
いま社会でも「男らしさ」に追いつめられる男性が問題になっています。フェミニズム運動が行くところまで行ったのに対して、「男性性」に関する言及ってまだまだ少ないんですよね。
源さんはそんな空気を肌で感じ取っているんでしょう。やっぱ感性の人だな~~と思わずにはいられません。
■このドラマ、実は登場人物全員が「レッテル」に苦しんでいる
かくいう私もこれを聞いて、ハッとしました。このドラマって「契約結婚」だけがテーマだけじゃないんだ!と。
そう、実は「逃げ恥」って登場人物全員が、「社会から勝手に与えられたイメージ」に苦しんでいるんです。
沼田さん(古田新太)→ゲイという性的少数者であるがゆえに、疎外感を感じたり、「男だったら誰でもいい」という偏見を持たれてしまいがち。
百合ちゃん(石田ゆりこ)→アラフィフで未婚かつノンママ(子どもがいない)。化粧品会社の広報としてバリバリ仕事をこなす姿はかっこいい!が、やはり「女としての幸せ」を周囲から押し付けられている。本人はもう吹っ切っているようだが、「中年女性のひとり身=孤独」だと思われることにしばしば怒りを感じている。
風見さん(大谷亮平)→文句なしのハイスペックイケメンで、一見悩みはなさそうだが、イケメンであるがゆえに同性からは嫉妬され、女性からは警戒されがち。何を言っても「イケメンはいいよな~」で済まされてしまう。
なかでも、高齢女性の未婚やLGBTの問題はなかなかデリケート。にも関わらず、この問題を軽やかに表現していることはこのドラマの評価すべき点とも言えるでしょう。
■「どうして人はレッテルを貼ってしまうんでしょう」
ところで第7話には、この「レッテル問題」への示唆に富んだシーンが登場します。
「自分が決めつけられるのは嫌なくせに、どうして人はレッテルを張ってしまうんでしょう」
平匡さんはそれまで、ゲイである沼田さんは「男性と女性の視点どっちも持っているから、鋭い(契約結婚に気づいてしまう)のではないか」と勝手に警戒していました。
それに対して、同僚が「いや、違うと思いますよ」「沼田さんは、沼田頼綱っていう生き物だからね」と何気なく諭すのです。
このセリフは社会におけるレッテル・偏見に向けられたメッセージであり、視聴者にとってもここは考えさせられたシーンだと思います。
■星野源が語る第7話の面白さ
この平匡さんの気付きは、第7話の中盤に登場します。「平匡さん拒否事件」の前です。
つまり第7話って、「レッテルはよくない」という前フリがあるのに、悲しいかなそのすぐ直後に、今度は視聴者が平匡さんに「男ならちゃんとしろ」というレッテル貼りをしてしまっている、という皮肉な回なんです。
ここに、第7話の面白さが詰まっていると源さんは言っています。
星野「このセリフがありながら、この後の平匡が拒否するというエンディングに、視聴者が怒っている。「男なのに何やってるんだ」と。
それって、平匡なり、みくりなりが、ずーっと苦しんできた、「男に生まれたから」「女に生まれたから」っていうレッテル、そういうものとまったく一緒なんですよね。
で、なぜみんながこんなに苦しんでるのか、っていう一番大事なところを、今度は視聴者が思ってしまうところが、このエンディングのすごく面白いところだなと思ったんです。」
うーん源さん、裏を読みまくってるな~~ww
確かに、このドラマは、登場人物がレッテルに苦しむ姿を繰り返し描いてきました。その度に視聴者は無理解な社会に対して一緒に怒ってきたはずなんです。
それなのに、「平匡さん拒否事件」で視聴者はあっさりと社会の側、つまり偏見を抱く側に回ってしまってるんですね。
さらに一歩踏み込んだ解釈をすれば、この回は「偏見はよくない」というお手本をあらかじめ示しておきながら、そのあとに視聴者が本当に理解できているかを試している、ともいえます。
もちろん私はまんまと引っかかりました。平匡さんの男気のなさに怒り、みくりちゃんかわいそう、と思った一人です。でも、よくよく考えたらこういう状況で男性が拒否する権利があってもいいわけですよね。
源さん「だから出演者が苦しんでいることの理由は、怒っている視聴者たちの心の中にあるんです。そこがこのエンディングのすごく面白いところです。」
■最後に
源さんはこんなことも言っていました。
星野「みんな苦しんでるんだけど、前向きになんとか頑張っているっていうのがこのドラマのすごく素敵なところ」
確かに、このドラマって登場人物って、無性に応援したくなりませんか?
「男だから」「女だから」「夫婦だから」というレッテルは私たちも日常的に感じていることで、それを知恵と努力で克服しようと頑張るみくりちゃん、平匡さんに、わたしたちは「ムズキュン」しているのでしょう。